2012年10月3日水曜日

脱中国 II サピオ10月号「中国抜きでASEAN富裕層の需要開拓すれば巨大市場化との予測」への疑問

SAPIO 10月号で、中国市場への偏重からASEANへの事業を伸ばすべきとの記事がある。

「急増する富裕層のニーズを掘り起こせば、日本製品の新たな巨大マーケットになる・・・(ASEANは)これまでは生産拠点として進出する対象だったわけだが、これからは現地生産した製品を消費してもらう戦略も一層進めるべきだろう。」と締めくくっているのだが、疑問がある。

ASEANの市場としての規模は中国と比較しても見劣りしない市場であり、日本企業はさらに進出を加速するべきという点に異議はない。

しかし、ASEANの富裕層はどのような層なのか?華僑である。

本土の中国人からすれば、華僑は1)中国本土が行う規模でのメディア統制を受けていないこと、2)先祖が中国本土での体制に嫌気がさして国外に出たという背景から中国共産党への崇拝度は低いこと、3)反日教育を受けていないこと、から「中国人」でないということが多い(中国人的な考え方・行動をとらないという)。

しかし、華僑でも日本の侵略戦争に対する思いは中華民族としてもっていることが多い。
私の周りの華僑たちは3世代ほどたった今でも中国本土とのコネクションを強く持っている。
ここ10年ほど華僑が中国本土の大学へ子供を送ることも珍しくなくなってきている。これは、忘れかけている中国語・中国文化を勉強し、成長めまぐるしい(かった?)中国市場ビジネスを本土で行うためにすることではあることが多いが、その時に中国人よりも中国人的な考えに陶酔することもある。
日本人が海外に行って自分の国を強く意識するのと似ていて、東南アジアの一国で、これまで自分のアイデンティティーが宙に浮いていた状態(華僑は東南アジアではマイノリティーとしてそれぞれの国で差別を往々にして受けている)から、自分の祖先の住んだ国にいってみて中国を自国と意識することもあるだろう。

中国本土と日本との政治的関係が、華僑の人間にも心理的に影響を与えることは容易にありえるのである。またASEANの各国にとっても中国は大きな市場であり、中国政府との良好な関係を保つために、親日的な方針はとりにくいのも注意するべきである。日本の経済がよかった10年ほど前までは、ASEANは上客である日本に対して親日的な発言を行うこともできたが、日本が上客でなく中国が上客に取って代わってきている今、下手に親日的な発言をすれば、中国の機嫌を損ないかねない(もちろん、国内の財布を握る華僑の反発もある)。

ASEANの富裕層を中国のカントリーリスクの逃げ道であるように論じることに私は懐疑的である。中国のカントリーリスクはASEANの富裕層と深いつながりをもち、中国の問題を放置すればASEANの市場でも日本企業は痛手を被ることになるかもしれないリスクは十分に認識しておくべきである。


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